ブロードウェイで好評上演中のミュージカル『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』。すっかりはまって、ボストン初演から通算すると観劇回数が30回を超えてしまったエディターがレビューとあらすじをお送りします。

ネタバレ注意】このページの最後には、ネタバレ全開のあらすじが掲載されています。ミュージカルの物語は映画とは一部異なりますので、未見の方はご注意ください。

転載禁止】まとめサイト等への転載はご遠慮ください。

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』とは

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は、バズ・ラーマン監督による映画『ムーラン・ルージュ(Moulin Rouge!)』(2001)の舞台化。パリにやってきた若い作曲家クリスチャンとムーラン・ルージュの歌姫サティーンの悲恋を軸に、人生そのものに向き合う愛の物語です。

ブロードウェイのアル・ハーシュフェルド劇場で2019年7月にオープン。2020年のCovidによるブロードウェイ閉鎖を乗り越えて、2021年9月にリオープン。

第74回トニー賞ではミュージカル作品賞、ミュージカル主演男優賞など最多10部門を受賞し、この年のトップミュージカルになりました。

キャストとクリエイティブチームは実力派揃い

クリスチャン

Photo credit: @MurphyMade

オリジナルキャストはアーロン・トヴェイト Aaron Tveit。
アメリカからパリにやってきた若い作曲家の一途な恋と心の成長を演じ、ニューヨークタイムズの劇評では「この役をやるために生まれてきた」と絶賛されました。そうでしょうそうでしょう😍。みんなサティーンのように恋に落ちるといいよ。アーロンの経歴は→こちら 

第74回トニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞

サティーン

Photo credit: @thtgirlholly

オリジナルキャストはカレン・オリヴォ Karen Olivo。
ムーランルージュの輝けるダイヤモンドと称されるスーパースターであり、踊り子たちから姉のように慕われる、賢くて芯の強いサティーンを演じます。愛は仕事と割り切っていた彼女が思いがけぬ恋に落ち、二つの価値観の間で揺れながらも、命を賭けて家族である仲間やクリスチャンを守ろうとする気高さに心打たれます。
ウエストサイドストーリーのアニタ役でトニー賞を受賞したカレンの歌とダンスは圧巻です。

第74回トニー賞ミュージカル主演女優賞にノミネート

2020年4月、Covid-19によるブロードウェイ閉鎖中に、カレンはBWが再開しても舞台には戻らない、と宣言しました。

この時期、映画・演劇界の大物プロデューサーのスコット・ルーディンによる常態化した部下への虐待やパワハラが明らかになりました。しかし進行中の数多くのミュージカル、映画、BW復興イベントの要の人物だったため、ブロードウェイ業界は沈黙。彼はムーラン・ルージュ!には関わっていませんでしたが、カレンは舞台の降板を宣言して、沈黙する業界に抗議をしたのです。

「社会正義はスパークリング・ダイヤモンドであることよりも重要です」
「私のポケットにお金を入れることより、学生たちのためにより良い業界を作ることが大切なのです」
と、これから舞台を目指す若者たちのために業界の浄化を訴えました。

これに多くの告発や俳優からの降板宣言が続き、ルーディンは手がけていたショーから手を引き、Broadway Leagueを辞任。カレンは今後も業界内の差別や虐待を解消する活動を続けるそうです。

舞台のサティーンはまさに彼女の人間性から生まれたキャラクターだと言えるでしょう。

演出・脚本

Alex Timbers photo: mtishows.com
John Logan
Photo: Emilio Madrid-Kuser

演出家のアレックス・ティンバースAlex Timbers(『ビートルジュース』等で2度のトニー賞ノミネート)と脚本のジョン・ローガンJohn Logan(映画『グラディエーター』『アビエーター』の脚本でアカデミー賞ノミネート)は、映画の絢爛豪華な世界観はそのままに、精神的に成熟し自立した新時代のヒロインを配して、新しい切り口で物語を編み上げました。

第74回トニー賞ミュージカル演出賞受賞、ミュージカル脚本賞ノミネート

楽曲・音響デザイン

Photo: Playbill

楽曲は映画と同様に、聞き覚えのあるヒット曲が物語を進行するジュークボックス・ミュージカル。映画で使用された曲に、公開後の約20年間にヒットした曲も加えて、キャストアルバムに使用されただけで52曲、舞台ではこれ以外にセリフがわりに一節だけ使われる曲もあるので、総計では70曲以上が使われています。過去の膨大なヒット曲のなかから、よくまあ歌詞がこんなにピッタリとキャラクターの心情に合う曲を見つけてうまく組み合わせたものだと、編曲担当のジャスティン・リーバインJUSTIN LEVINEの手腕には舌を巻きます。

第74回トニー賞オーケストラ編曲賞受賞、ミュージカル音響デザイン賞受賞

振付

photo:@moulinrougebway

注目の新進気鋭の振付家ソニア・テイエSONYA TAYEHの極めてドラマチックな振り付けを、BWのトップダンサーたちが完璧に踊りきる群舞は壮観です。

第74回トニー賞振付賞受賞

衣装

photo:@moulinrougebway

衣装はトニー賞の常連キャサリン・ズーバーCATHERINE ZUBER。品良く官能的で、キャラクターの美しさを際立たせ内面がにじみ出るような衣装です。

第74回トニー賞ミュージカル衣装デザイン賞受賞

装置デザイン

photo:Derek McLane

装置デザインは舞台の他に長年アカデミー賞授賞式の華麗なセットを担当してきたデレク・マクレーンDEREK MCLANE。繊細なレースを組み合わせたような緻密な舞台セット、赤い風車と大きな青い象。劇場に足を踏み入れた途端に、美しく毒を含んだムーランルージュの世界に取り巻かれて陶然となります。

第74回トニー賞ミュージカル装置デザイン賞受賞

映画とは一味違う舞台版ムーランルージュ

映画『ムーラン・ルージュ』(2001)の前時代的な「真実の愛と夢を追い求めた薄幸の籠の鳥」のロマンチックな悲劇の物語や、映画特有の映像表現に思い入れのある方は、舞台は映画とは別物、と留意された方がいいかもしれません。
儚く美しいニコール・キッドマンやユアン・マクレガーは出てきませんし、登場人物全員が抱えていた処女性に執着する(女は関係を持った男のモノ的な)価値観は物語から排除されています。絢爛豪華なボリウッドシーンや嫌な公爵をボカーンと殴って愛が実ってめでたし系のカタルシスはありません。

特に異なるのはサティーン像。映画のサティーンが運命に翻弄されるディズニークラシックスのプリンセスとすれば、舞台のサティーンは運命に立ち向かい自分のみならず人のためにも道を切り拓く現代のディズニーヒロイン。ニコール・キッドマンでいえば映画『アクアマン』(2018)で演じたアトランナのイメージです。
たとえ強く賢くても結核でたやすく命を落としたこの時代に、彼女は愛する人たちを生かすために残された時間を費やす人間性を備えています。

またトゥールーズ=ロートレックも、映画では狂言回し兼恋人たちの理解者という立場でしたが、舞台では、デュークと対峙するような人間の平等と自由を信じる気骨ある芸術家であり、ふたりの理解者でありつつ、初めて出会った時からずっとサティーンを愛し見守ってきた人物として描かれています。

目もくらむ華やかなパフォーマンス、コミカルなシーンで大笑いし、素晴らしい歌声にうっとりとする。それだけでも十分に価値のある舞台です。
そして一旦ステレオタイプのメガネを外して観ると、過剰なまでに豪奢な世界の底に澱んだ抑圧や、キャラクターたちが自分の選んだ道を主体的に生きようとしても、叶わずに葛藤に陥っていく姿が見えてきて、現代の私たちを映す鏡のようです。この二面性が中毒になるのかも(笑)。

“Why else live if not for love?”が舞台のテーマ。
どんな愛が誰の人生をどのように変え、どう救うのか。
愛し愛される恋人同士の物語にとどまらず、家族の愛や仲間への愛情にまで想いは広がり、人生における出会いや、喜びも苦難もすべてをふりかえったときに感じる自分の人生への愛について考えさせられる作品になっています。

バズ・ラーマン監督は舞台版の制作にあたり「映画のカーボンコピーにはしないでほしい」と要望し、出来上がったこの作品を「映画に敬意を払った素晴らしいアダプテーション」と高く評価しています。

個人的には、思い切った価値観アップデートをしたおかげで舞台の将来性やロングランの可能性が広がったと思います。
現実の世界に現れた『ムーラン・ルージュ』。その魅力にとりつかれて、放蕩者のように足繁く通ってしまいます。

劇場

アル・ハーシュフェルド劇場 AL HIRSCHFELD THEATRE
302 W 45th St, New York, NY 10036 USA
Between 8th Avenue & 9th Avenue

上演時間

2時間35分(幕間15分)

公式サイト

https://moulinrougemusical.com/new-york/home/

チケット入手方法🎫

アーロンは2022年5月8日に降板し、後任はデレク・クレナさん。参考のために2019-2021頃のチケット入手方法を残しておきます。

  1. 公式オンライン・電話 定価+手数料 渡航前購入可 座席選択可→ SeatGeek
    ・手数料が結構高いのがネック。しかしオンラインなら英語を話せなくても渡航前に好きな席が確保できる安心感・満足感は大きい。
    ・リセール席は定価より高い場合があるので注意。
    ・公演の5〜7日前に、ハウスシートとして保留されていたプレミアムエリアの座席の売れ残りが購入できるようになる。
  2. 劇場窓口(Box Office)で直接購入 定価 座席選択可 
    ・窓口オープン時間 月〜土: 10 AM – 8 PM 日: 12 PM – 8 PM
    ・購入手数料が安い。あらかじめオンラインで空席と値段を確認してから窓口で購入すれば納得できる席を買えそう。
    CANCANシートはオンラインではペア(2枚)からしか購入できないが、窓口ならシングルで売ってくれる(2022年5月現在 CANCANシートはオンラインでもシングル購入可能)
    ・カウンターの人が「この席が一番安いよ」など教えてくれることもあるそうです。相談してみよう!
  3. ロッタリー(抽選)  $29 現地時間で公演前日の午前11時までにエントリー、12時に抽選、当たったら公演前日の16時までに購入 座席選択不可 公式サイト→LUCKY SEAT
  4. キャンセル待ち 定価?(定価より安い場合もあり?) 当日窓口販売 座席選択不可
  5. スタンディングルームシートSTANDING ROOM SEATS(立ち見席)  $50
     マチネ10:30 ソワレ14:30より窓口で販売(ただし毎回ではない) 
     詳細は公式サイトFAQ→ 劇場公式サイト
  6. Care-Tix 定価+寄付 Broadway Cares/Equity Fights AIDSに定価と同額の寄付をする、つまり額面の2倍支払うことで、プレミアムシートやハウスシートを手配してくれる。メールでのやり取りが必要。詳細はCare-Tixサイトへ→Care-Tix

割引チケットで有名なTKTSとTODAY TIXは、アーロンの出演している期間はMR!のチケットはありませんでしたが、2022.06現在は取り扱いがあるようです。安く観たい場合には、こちらを先にチェックしておくといいかも。

  1. TKTS タイムズスクエアとリンカーンセンターにある割引チケット販売所 
  2. TODAY TIX 割引チケットサイト→todaytix

休暇情報は必ずチェックして、被らないように購入。アーロンのオフィシャル休暇は下記の通り。基本的に病気などのアクシデントがない限り毎日登板しました。
 2019年7月オープン後 2020/2/25 – 3/1
 2021年9月のリオープン後 2022/4/9 -11

(2019.12.13)上記以外にも、現地の旅行代理店などでチケット購入の代行も行われている。割引価格(?)+手数料 渡航前購入可 座席指定不可。
支払手続きは日本語で行いたくて座席には全くこだわりがない(後ろでも端でも舞台が見えればOK)、という場合は検討対象になるかもしれない。チケット引き取りは自分で劇場窓口で行うので英語が必要。

チケット代行の中には$100以上の大幅ディスカウントができるようにうたっているサイトもある。しかし調査当時(2019/12)の「ムーランルージュに限って言えば」、公式チケットサイトの同日同エリアと比較してみると、手数料を合計すれば表向き書かれているほどの値引きにはならなかったり、日によっては公式の方が安いのでは?と感じた。(図参照)

仕組みがわからないのでなんとも言えないが、サイトの表記通り$350▶$199〜とか$269~▶$129~になるのは、極めて限られた日程ではないだろうか。割引を狙うというより日本語翻訳代込みと割り切るか、公式とよく比較検討してから申し込んだ方が良さそう。

【例】
左:「ディスカウント」チケット
オーケストラ(プレミアム除く)orメザニン前方で$285.7+手数料 座席選択不可 
右:公式チケット
オーケストラ(プレミアム除く)orメザニン前方は$229+手数料$22.2
センター3列目(プレミアムシート)は$259.0+手数料$23.2 座席選択可

ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル ブロードウェイ版 あらすじ

【ネタバレ注意】以下、物語のラストまで掲載していますので、ネタバレを読みたくない方はご注意ください。
【転載禁止】まとめサイト等への転載はご遠慮ください。

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』公式Youtubeチャンネルが音源(19曲中15曲)を無料で公開。プレイリストはこちら

(📷 All Photos by Murphy Made

Photo: Murphy Made

第一幕

パリ、1899年。ムーランルージュの幕が上がる。ナイトクラブであり、ダンスホール、劇場でもある夢の空間。四人の美しい踊り子、ニニ、アラビア、ラ・ショコラ、ベイビードールと、ムーランルージュの興行主ハロルド・ジドラーが観客を歓迎する。

Photo: Murphy Made

カンカンで盛り上げた後に、ジドラーはムーランルージュのパトロンを紹介する。上流階級のデューク(モンロス公爵)、そしてボヘミアンのクリスチャン、トゥールーズ・ロートレック、サンティアゴ。(”Welcome To The Moulin Rouge”)

Photo: Murphy Made

いよいよムーランルージュのスターが登場するというまさにその時、クリスチャンはショーを止めて時を戻し、我々を全てのはじまりの場所に連れて行く。

モンマルトルの路上、アメリカからパリに着いたばかりのクリスチャンが現れる。彼はすぐに大芸術家のトゥールーズ・ロートレックとアルゼンチン人のタンゴダンサー(そしてジゴロ)のサンティアゴに出会う。

Photo: Murphy Made

ロートレックとサンティアゴは、ショウの音楽を作るのに四苦八苦していた。二人はクリスチャンが才能あふれるソングライターだと知ると、偉大な理念に加わりボヘミアンの理想に生きるよう誘う。(”Truth Beauty Freedom Love”) 

Photo: Murphy Made

彼らはクリスチャンの才能を見込んで、キャバレー「ムーラン・ルージュ」の歌姫サティーンのオーディションを受けさせようとする。彼の歌が彼女に気に入られれば、ムーラン・ルージュで上演する次の舞台を作ることができるのだ。

場面はナイトクラブに戻り、ついにムーラン・ルージュの「スパークリング・ダイヤモンド」、スーパースターのサティーンが登場する。(”The Sparkling Diamond”) 

歌っている間、サティーンが病気であることが垣間見える。それでも彼女のパフォーマンスはデュークとクリスチャンを魅了する。

Photo: Murphy Made

ジドラーは、デュークの気前の良さがムーランルージュを切羽詰まった経営難から救ってくれることを期待して、ショーの後に象の部屋でデュークとサティーンが内密に会えるよう段取りをする。
ところがサティーンはクリスチャンをデュークと思い込み、ダンスフロアで誘惑にとりかかかる。クリスチャンは彼女が自分の運命の女性だと確信する。(”Shut Up And Raise Your Glass”)

Photo: Murphy Made

バックステージでは踊り子たちが、ムーランルージュの今にも潰れそうな経営状態について話している。サティーンは身寄りのない踊り子たちから「ママ・サティーン」と慕われる姉のような存在。店がなくなれば家族同様の踊り子たちは街娼に転落してしまう。街娼には戻りたくないと泣く踊り子を、サティーンは「私がそんなことはさせないわ」と勇気づける。踊り子たちが去るとジドラーがやってきて、皆が最も恐れていたことを認める。サティーンがデュークの誘惑に成功しなければ、ムーランルージュは潰れて皆は路上に戻ることになる。
ジドラーは「わしらはいつこんなに歳をとっちゃったのかな」とおどけつつ、デュークに気に入られるように念入りに支度を整えるように言って去る。一人残ったサティーンは鏡を見つめ、自尊心を失いそうになるが、心を奮い立たせる。(”Firework”)

象の部屋でサティーンがデュークのために支度をしていると、クリスチャンがやってくる。まだ彼をデュークだと思い込んでいるサティーンは、彼女へのラブソングでオーディションを受けるつもりのクリスチャンに調子を合わせる。(”Your Song”)

Photo: Murphy Made

クリスチャンの歌を聞いた瞬間、サティーンは自分の世界が変わったことに驚く。商売を忘れて彼に心を奪われ、その歌は本物の愛の告白になる。彼らがキスをしたその時、ジドラーが本物のデュークを連れてドアをノックする。

クリスチャンの正体がわかったサティーンは驚き、そこへロートレックとサンティアゴが飛び込んできて、部屋に入ってきたジドラーとデュークは奇妙な光景を目にする。ボヘミアンたち、サティーン、ジドラーは一つの物語をでっち上げ、デュークに、ここに連れてきたのは資金援助ができるショウのアイディアを売り込むためだと語る。(“So Exciting! [The Pitch]”)

デュークは意外にも同意し、ジドラーと話をするために去る。サティーンはクリスチャンに、パリの娼婦など忘れるのが彼のためだと言う。思いがけぬ言葉に彼は落胆して部屋を去る。デュークが象の部屋に戻り、サティーンは彼のものだと断言する。(“Sympathy For The Duke”)

Photo: Murphy Made

モンマルトルに戻ると、ロートレックは傷心のクリスチャンを慰めようとサティーンの悲しい生い立ちと、告白しなかった彼の愛を語る。(“Nature Boy”) 彼はクリスチャンに彼の轍を踏まず、彼女のために戦えと促す。

ムーランルージュでは、デュークがショウに資金援助をするだけでなく、ムーランルージュそのものとそこにいるすべての人々を買うという契約に、ジドラーが合意する。デュークは今やサティーンを所有している。

クリスチャンはこっそり象の部屋のサティーンの元に戻る。彼は彼女に愛を誓い、生活のためにデュークと暮らすとしても、僕たちは恋人になろう、と言う。サティーンはバカじゃないのとそれをはねつける。

Photo: Murphy Made

彼女は彼を愛してしまうことに恐れを抱いているが、ふたりの本当の気持ちには抗えず、互いに愛を告白し最後に劇的なキスをする。(“Elephant Love Medley”)

Photo: Murphy Made

第二幕

幕が上がるとムーランルージュのバックステージ。そこで観客は秘密の恋の苦しみに深くもがいているのがクリスチャンとサティーンだけではないことを発見する。ニニとサンティアゴは情欲的なパ・ド・ドゥを踊る。

Photo: Murphy Made
Photo: Murphy Made

それを中断するのは、大きなショウに向けて踊り子たちがリハーサルを始める時だけだ。(Backstage Romance)

Photo: Murphy Made
Photo: Murphy Made

「銃のシーン」のリハーサルの間、デュークは、このショウが彼の知らないところで進行している恋の三角関係とパラレルであることに気付かずに見ている。

デュークはロートレックに、演劇部分が陰気すぎる、もっと派手に変えろ、と注文を付け、ロートレックはこのショウは(ただの娯楽ではなく)パリの社会が自分自身を観る鏡だ、と反論する。

このロートレックのセリフ、映画のままの舞台化を求める声に対する制作者のメッセージにも思えます

「私のことは『閣下』と呼べ」というデュークと「人は神のもとに平等だ。俺は称号などには頭を下げない。俺はアーティストだ。あんたこそ芸術に対して敬意を払え」というロートレックが険悪になり、リハーサルは中断する。
デュークはサティーンに別の衣装を用意することを決めて「『私のもの』は全て輝いていなければ」と彼女の肩にキスをする。クリスチャンは憤慨して出ていく。

踊り子たちも解散するが、ニニはサティーンと話をするために残り、デュークの危険な噂を彼女に警告する。デュークの寵愛を受けながら裏切った女の顛末ー秘密の恋人は喉をかき切られてセーヌ川に浮かび、女は何者かに酸を顔にかけられてその美貌を失った、と。話をしているうちに、サティーンの病状がいっそう悪くなっていることが明らかになる。

ロートレックの屋根裏部屋にサティーンが訪れ、クリスチャンにデュークのことを警告し、ふたりの関係を終わらせようとする。クリスチャンは、どこか静かなところで子どもたちと暮らすハッピーエンディングを信じて、と、ふたりだけの秘密の愛の歌を書く。(“Come What May”)

Photo: Murphy Made

「もう一つのパリ」、裕福な者たちの住むパリで、サティーンはデュークと会う。彼はここから見える城が彼女のものであり、召使いをつけ、クラブをやめる代わりに日々を贅沢に過ごせるようにすると言う。上流階級に迎えるという申し出にサティーンの心が揺れる。デュークがサティーンを高級なドレスショップに連れて行くと、不気味なクチュリエたちが彼女を着飾らせて、デュークの思い描く真の淑女にする。(“Only Girl In The Material World”)

着飾ったサティーンとデュークはリハーサルに戻る。デュークのあつらえた衣装がクリスチャンには気に入らない。リハーサルが進むと、デュークは何度も中断して口を挟み、ロートレックを激怒させる。クリスチャンは口を滑らせて、彼とサティーンの関係を明かすようなことを言ってしまう。

デュークはついに「物語を書き換えろ。このちっぽけなショウも彼女もお前たちもみんな、私のものだということを忘れるな!」と怒鳴り、ロートレックは「俺は誰の所有物でもない!」と烈火のごとく怒って立ち去る。サティーンはクリスチャンを責め、彼は傷ついて出ていく。

ジドラーはサティーンに、デュークの元に行き、彼をなだめてクラブを救ってくれるよう説得する。彼女は突然激しく咳き込み、ついに診断結果が結核だったことを明かす。彼女の命が尽きるのは時間の問題だが、ショウを続けられるようにすると誓う。

ジドラーは踊り子たちと一緒にロートレックの屋根裏部屋を訪ねてクリスチャンを励ます。彼はクリスチャンにサティーンを忘れるよう説得しようとする。彼の記憶から彼女を焼きつくすために、彼らはアブサンに溺れる。(“Chandelier”) 

皆騒がしく酔っ払い、クリスチャンはサティーンにそっくりな緑の妖精の幻を見る。

泥酔した幻覚の中で、クリスチャンはジドラーの警告を聞く。最も高値をつけた者に自分を売る女と恋に落ちるのは危険だ、と。街路をさまよいながら、クリスチャンは錯乱してニニ、サンティアゴ、パリに住まう者たちが彼の周りで激しいタンゴを踊るのを見る。彼の頭にはデュークの「このちっぽけなショウも彼女もお前たちもすべて私のものだ」という言葉がこだまし、自分の甘さを嗤い、初めて感じる激しい嫉妬の感情に慄く。彼が信じられるのはサティーンの愛だけになり、彼女と共に出ていくためにデュークの邸宅に向かう。(“El Tango De Roxanne”)

デュークの邸宅では、ふたりの密会の証拠を掴んだデュークがサティーンに「クリスチャンを捨てろ、さもないと奴ののどをかき切って、ムーランルージュを潰す」と詰め寄っている。

Photo: Murphy Made

そこへクリスチャンが、ひどく酔って飛び込んでくる。彼はサティーンに手を差し伸べて「一緒に遠くに行こう」と秘密の愛の歌を歌いかけるが、彼女は彼を救うために手ひどく拒絶する。二人はともに深く傷つく。

クリスチャンは心を打ち砕かれて崩壊し始める。(“Crazy Rolling”) 

劇場ではサティーンの病状がますます進んでいた。ジドラーの懇願も聞かず、彼女はその夜の舞台に立つと言い張る。クリスチャンの歌がこの世に出る大切な日を台無しにできない、と。

Photo: Murphy Made

一方クリスチャンは路上で、ショウで使う小道具の拳銃に込める銃弾を手に入れる。

ショウが始まる前に、ロートレックがサティーンの楽屋にやってくる。彼は彼女の病に気づいており、ふたりは互いに敬意を込めて最期の挨拶を交わす。そこへデュークがサティーンへの花束を抱えて現れる。彼女は彼に城を返し「私は誰の所有物でもない!」と別れを告げ、デュークは激怒して去る。ロートレックは心を打たれ、彼女の名を不朽のものにすると約束する。

ショウが進む。ドラマチックな銃のシーンで、クリスチャンは拳銃を引き抜き、「愛がなくてどうして生きられる?」と銃口を自分自身に向ける。サティーンは彼にふたりの歌を歌いかける(Your Song Reprise) 。

愛が打ち勝ち、彼の心は解ける。二人は互いを抱きしめるが、それはサティーンが病に倒れる前の最期のひと時だった。サティーンはクリスチャンに、ふたりの物語を伝えて、と約束させる。そうすればふたりはいつも一緒だと。彼女は彼の腕の中で安らかに息をひきとり、皆がふたりの愛の歌を歌う。(“Finale [Come What May]”)

エンディングはお祭り騒ぎ。全員が最後の一曲のために戻ってくる。(“More More More! [Encore]”)

Photo: Murphy Made

2018ボストンプレミア公演版 観劇メモ&感想 初見の初々しい感想はこちら↓