2017年8月22日(火)〜27日(日) 、観に行ってまいりました。マサチューセッツ州ピッツフィールドのバリントン・ステージ・カンパニー、ボイド・クイントン・メインステージ劇場
配役
ロバート(ボビー):アーロン・トヴェイト Aaron Tveit as ROBERT
サラ:ジャネット・ベイヤデール Jeannette Bayardelle as SARAH
ハリー:ローレンス・ストリート Lawrence Street as HARRY
スーザン:ケイト・ロペスト Kate Loprest as SUSAN
ピーター:ポール A・シェーファー Paul A. Schaefer as PETER
ジェニー:ジェーン・フィッツチ Jane Pfitsch as JENNY
デヴィッド:ジェームス・ラディック James Ludwig as DAVID
エイミー:ローレン・マーカス Lauren Marcus as AMY
ポール:ジョセフ・スピルディナー Joseph Spieldenner as PAUL
ジョアン:エレン・ハーヴェイ Ellen Harvey as JOANNE
ラリー:ピーター・リアドン Peter Reardon as LARRY
エイプリル:マーラ・ダヴィ Mara Davi as APRIL
マルタ:ノーラ・シェル Nora Schell as MARTA
キャシー:レベッカ・カズニック Rebecca Kuznick as KATHY
制作
脚本:ジョージ・ファース Book by GEORGE FURTH
作詞・作曲:スティーブン・ソンドハイム Music & Lyrics by STEPHEN SONDHEIM
音楽監督:ダン・パルド Musical Direction by DAN PARDO
振付:ジェフリー・ペイジ Choreographed by JEFFREY PAGE
演出:ジュリアン・ボイド Directed by JULIANNE BOYD
Banner: https://barringtonstageco.org
(私はミュージカルファンではなくてただのアーロンファンなので、観劇記といってもアーロンかっこいいかわいいということと、独断に満ちた解釈を書き散らしてるだけということを、最初におことわりしておきますね…)
観劇前に戯曲を全訳し(こちら:パスワード:ブロードウェイボーイフレンドのファーストネーム英字5文字。最初の1文字は大文字)過去のプロダクションの映像も何度も見て、どの歌も美しくて聴きごたえがあるのはわかったが、いまいち物語のつながりや意図がわからなかったこの作品。
今回の観劇は、すべてのピースが最後のBeing Aliveでパチパチとはまっていき、ボビーを通して自分自身の心の底をのぞき込むような体験でした。
それを可能にしたのは、ボビーを演じたアーロンの存在でした。ファンのひいき目をのぞいても、男らしくてかわいげがあって、振る舞いに品があるのにときどきすごくおかしくて(アーロン、コメディアンの才能があるよ!)誰もが惹きつけられる魅力的な男性。でも内面に不安な子どものような部分があって、それをかしこさと生来の人懐こさで覆い隠しているような感じがだんだん見えてきます。劇中、彼は友人たちに混乱させられっぱなし。でもそれを通じて最後に自分の本当の望みに気づいていきます。その変化が、あの声で、表情で、細やかに見事に表現されるのを観て聴くことができるのは、至福という言葉がぴったりです。
ひとりの人間の中にある、輝くような明るさと奥底に隠れた孤独や仄暗さという相反する二面をアーロンほど上手く演じ、歌える役者はそうはいないでしょう。アサシンズのブースも、キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンのフランクも、ネクスト・トゥ・ノーマルのゲイブも。グリース・ライブのダニーですら、そうです。
アーロンは読書家だから、この戯曲も相当読み込んで演出のジュリアン・ボイドと話し合ったのではないでしょうか。戯曲のあちこちにちりばめられた言葉が有機的につながってくるような演出と演技でした。観れば観るほど新しい発見があるおもしろい舞台です。
9月2日にはソンドハイムが来臨し、非常に満足した様子であいさつと感謝を述べた映像が出ました。ブロードウェイへのトランスファー、そしてトニー賞へと期待してたけど、それは叶わなかったな…。
舞台装置
barringtonstage https://www.instagram.com/p/BX3K_PQlxUa/
Team electrics getting ready for today’s two show day of #BSCCompany!
舞台は三階建て。両側から階段を上がったところがバルコニーのような二階、そこからさらに階段を上がって長い渡り廊下のような三階。三階は袖から出入りできるようになっている。5つの窓には、ニューヨークの摩天楼の写真。フロアはボビーや各夫婦の部屋、公園やナイトクラブになる。
舞台ハイライト映像
Company starring Aaron Tveit Youtube https://youtu.be/_Rn2562ovtg
誌上舞台中継
【第1幕】
第1場
紫がかったブルーの照明。ロバート(ボビー)が自分の部屋に帰ってくる。明かりもつけず、ブランデーをグラスに注ぎ、留守番電話を聴く。友人たちからのたわいないいくつかの伝言。エイミーはサプライズパーティがあるらしいことを明かしてしまう。ボビーはほほえみながら聴いている。最後のマルタからの伝言は「妊娠したっていうのはドクターの間違いだったわよ。これでわたしに連絡しやすくなったんじゃないの?」。彼は真顔になってそれを聞く。
ボビーはグラスをあおり、録音ボタンを押し(この仕草が美しくて好き)「今日はぼくの35歳の誕生日だ。だから君がどんな用事で電話してきたとしても、ぼくの返事はYesだよ」と明るく吹き込む。
しかしその後小さなため息をついてベッドの端に腰掛け、途方に暮れたような顔で遠くを見つめ、深いため息をつき、眉根を寄せて目を閉じ、うつむいて片手で顔を覆う。疲れ果てたような、ひどく悩んでいる様子。
そこへ単調な「ボビー…ボビー…ババババババババ…」というコーラスと共に、亡霊のように友人たちがプレゼントを持って入ってくる。照明はブルーのまま。彼らはぴたりと止まると、おきまりの誕生日のお祝いを人形のように口をそろえて言う。ボビーは最初は驚くが、苦笑してお祝いの言葉に感謝する。
急に明るくなって、友人たちが生き生きと動き出す。エイミーがキャンドルをともした大きなケーキをボビーの前に差し出す。「願いを込めて吹き消して!」と友人たちに口々に言われたボビーは、目を閉じてほっぺを膨らませてふーーっと力一杯息を吹きかける(全部吹き消すぞ!という勢いで首を振って吹いてるところがものすごくかわいい)。しかし、ろうそくはひとつも消えない。あれー?と笑って、また目を閉じてふーーっとするが、またしても消えない。ボビーはなんだかオカルトを見るような顔をして、目を開けたまま3度目の息を吹きかけるが、それでも消えない。
By: Barrington Stage Company
「何を願ったの?」と聴かれて彼は「実は願い事がないんだ」と言う。「そんなばかな」などと笑いながら友人たちは階段を上り、カップルになってテーマ曲の”Company”が始まる。
友人たちは口ぐちに「ボビーベイビー」「ボビーブビ」「ロバート、ダーリン」「うちに寄っていって」「一緒に夕食をとろうよ」「私たち、あなたがだーーーーい好きよ!」と呼びかける。みんな彼がかわいくてたまらない様子だ。
最初は「そんなにからかわないでくれよ…困ったな」といいたげに遠慮気味だったボビーも、みんなの熱意に押されて次第に元気になり、歌い始める。
“Phone rings, Door chimes, In comes Company! No strings, Good times, Room hums, Company!”
このソロパート、友だちが集まってきてパーティが始まる様子を、映画でいえば遠景からしだいにクローズアップされてくるように、最初はわくわくするような軽いトーンで歌い始める。そして最後の
“That’s what it’s really about, Really about!”
を、あのアーロンの声の魅力を全開にして歌い上げて、観客の耳を虜にする。
By: Barrington Stage Company
その後は友人たちとの掛け合いで彼らとの愛情あふれる交流、ガールフレンドたちも加わって、誰にとってもボビーは欠かせない存在であること、仲間でいることの賛歌が歌い上げられる。
Barrington Stage Company Facebook: https://www.facebook.com/watch/?v=10154845896301099
By: Barrington Stage Company
第2場
ボビーはサラとハリーの家を訪れる。リビングはサイケなちゃぶ台とお座布団だ。ハリーは少林寺の僧のように手を合わせてボビーを迎え、ボビーもまねをして手を合わせてあいさつする(かわいい)。
サラとハリーのふたりは気がよくて、いつも楽しげだ。しかしささいなことですぐにお互いに張り合う。陽気なサラは言い出したら引かないのだ。ちょっと険悪な雰囲気になると「ハリー、バーボンのおかわりをくれる?」とボビーが仲裁をする。サラは美食家だがダイエット中、ハリーは酒好きだが禁酒中。お互いの悪癖を暴露し合った末に隙を見て好物を口の中に放り込み、食べていないふりをする。間に挟まれたボビーが困惑するのが毎回笑いを誘う。
サラが空手を習っていると知ったボビーは技を見せてくれるように頼む(手を合わせて「お願い!」という頼み方がかわいい)。サラはハリーを投げ飛ばすが、次の組み手ではハリーがサラを持ち上げ、どんどん格闘がヒートアップする。途中でジョアンが現れ、結婚を成功させるのは、ささいなことを二人でやることよ、と”The Little Things You Do Together”を歌いはじめる。
By: Barrington Stage Company
ボビーがすごい形相で取っ組み合う二人を止めようと「二人ともすごくよくやったよ」と言うと、二人は一瞬ボビーの方を向いてものすごくいい笑顔で「ありがとう!」と言ってまた格闘を始める。ここも毎回爆笑。
一旦離れた二人の間に入って、ボビーが「ハリー、バーボンのおかわりを…」と言うやいなや突進してきた二人に挟まれ、サンドイッチになって転倒。
その周りをジョアンたちが取り囲んで「あんなこともこんなことも、ささいなことを一緒にやることが結婚の喜びを生むんだよ」と面白おかしく、諭すように歌いかける。ボビーは「もうどうにでもしてくれ」というような顔でそれを聴く。
By: Barrington Stage Company
「もう遅いから帰らなくちゃ」とボビーが言うと、それまでいがみ合っていた二人が向き直って口をそろえて「えーっ」という。まるでボビーがいるから安心してケンカができていたようなそぶりだ。ありがとう、楽しかった、と別れのあいさつをしたあと、ボビーは客席を向いて、驚いたな、というように”Wow…”と言う。
サラが寝室に行き、残ったハリーにボビーは問いかける。「結婚して後悔したことある?」
ハリーは父親が息子に大事な話をする時のように、隣においで、と手招きして(ここ好き)、”Sorry-Grateful”を歌い始める。
デヴィッドとラリーも加わって、「後悔と喜びは同じ事の表裏のようなもの。彼女がいなかったらどうだったろう、といつも後悔するし、いつも感謝する。彼女を抱きしめて、君は思う。『僕はひとりじゃない』でも 君はひとりのままだ。結婚ですべてが変わるけれど、何も変わりはしない。君は君のままだ。まだ何も起きていないのに、なぜ答えを探すんだい?」ボビーは、そうか…そうだね…という顔で聴いている。
第3場
ボビーはスーザンとピーターの家のテラスにいる。マンハッタンの摩天楼の一角の高級アパートメントのようだ。ピーターはハンサムスマイルを絶やさないアイビーリーグの卒業生。スーザンは明るく華やかな南部美人。常にラブラブで子どもたちを大切にしている美男美女のカップルだ。ピーターが危険なことをしでかすとすぐにスーザンが失神する話をして、みんなで笑い合う。ボビーが「君たちは本当にすてきな二人だな。ピーター、もしも君が彼女の元を去るなんて事があったら、ぼくに一番に教えてくれよ」と冗談を言う(スーザンのおとがいを指ですっとなでながら言うのが色っぽい)と、ふたりはうれしそうに笑いながら「君が最初に知ったよ!」「私たち離婚するの!」まだみんなには内緒ね!とはしゃぐ二人と、唖然とするボビーとのギャップに大笑い。
第4場
ボビーはジェニーとデヴィッドの家でマリファナタバコを吸っている。ジェニーがゆっくりと差し出したタバコを、はるか彼方でデヴィッドが手を伸ばして受け取ろうとしている(マリファナを吸うと時間や空間の感覚がなくなるそうだ)。ボビーは、ジェニーからまるで高級な葉巻を受け取るかのようにエレガントな手つきでタバコを受け取り、一服キメてからデヴィッドにまわす。
ジェニーはすっかりハイになっているようで、逆立ちをしたりロバートの水のコップに手を突っ込んだり、普段は絶対言わないような言葉を連発する。それを見たデヴィッドとロバートは笑い転げる。(多幸感にあふれてどんなことにも笑えるのもマリファナの作用らしい)
By: Barrington Stage Company
「あなたはなぜ結婚しないの?」とジェニーに聞かれてロバートが「ぼくは準備ができてる。結婚の方がぼくを避けてるんだ」というと、ジェニーとデヴィッドは顔を見合わせてブワーッハッハッ!と大笑い。結婚談義が始まる。デヴィッドがうっかり「結婚してぼくはすべてを手に入れた。…自由以外は」と言ってジェニーににらまれると、ボビーは「それだ。結婚するといつもそばに他人がいることになる。そこから逃げ出せない。たとえ逃げ出したとしても、結婚に縛られている」という。「無意識に結婚に抵抗してるんじゃないの?」と言われても「違うね。絶対に!抵抗なんかしていない。ぼくは準備ができてる」と頑固だ。「じゃあなぜ結婚しないの」と言われて3人のガールフレンドの事を思い出す。
「エイプリルは美人でおもしろい。キャシーは最高だ。マルタは本当にかっこいいんだ。結婚に抵抗なんてできない。ほら、準備はできてるじゃないか」「そうだね。で、なんで結婚してないんだ」
すると3人のガールフレンドが彼を取り囲み、彼がどれほど困った恋人か”You Could Drive a Person Crazy”を歌い始める。彼女をうっとりさせてベッドで楽しんだあとは、ゾンビみたいに彼女に関心をなくしてしまう、どんなにがんばっても彼のこころを独占できない。手に入れたと思ったらするりと逃げていく、人の心を惑わす本当に困った人なのよ!と。
歌の中で一度、彼女たちがたぶんとても卑猥な意味のジェスチャーをするのだけれど、ボビーは慌てて「だめだめそんなことしちゃ」と止めて、観客にも「見ないで」と隠そうとするのがまた品がいい感じでおかしい。
マリファナが見せた幻覚のように彼女たちが去って行くと、ジェニーが「おなかが空いたわ」と言う。ボビーが「もう一本吸う?」と尋ねると、最初は「いいわね」と答えたのに、デヴィッドが「やめておけよ」と言うと最初から自分もそう思っていたかのように「全然欲しくないわ」と言う。デヴィッドが彼女を抱きしめて「僕は堅物と結婚したんだよ。食べ物持って来て」と言うとジェニーは急に真顔になって「あなたが正しいのかも知れないわ」とボビーに言って台所に去って行く。
残された男2人はビーズクッションを並べて内緒話。
「どういうこと?」と尋ねるボビーにデヴィッドは少し辛そうな顔をして「彼女はハイになっているふりをしていただけだ。僕は彼女を知っている。彼女は本当はマリファナが好きじゃない。僕のためだ。僕のために、あれを好きになったんだよ」という。「彼女は堅物というか、いい子というか…」という言葉に「猫を被ってる」と続けるボビー。2人は顔を見合わせて微笑する。デヴィッドは妻を手伝うために去り、残ったボビーはまた観客の方を向いて”Wow…”という。
友人たちが出てきて”Have I Got a Girl For You”が 始まる。夫たちが「お前のためにいい女を見つけてきたぞ。独身のうちにたっぷり楽しめ」とけしかける。ボビーは一瞬その気になり上着を脱いでにやりとしてみせるが、すぐに(そんな柄じゃないよ)と笑って上着を着てしまう。それなら、と夫たちは彼をいすに座らせ、「結婚して君は何を欲しいんだい?ドアで待っててくれる誰か?お帰りのキス?ローマへの旅行?大冒険?(ここでポールがビーズクッションに後ろ向きにダイブするのだが、初日にはクッションが爆発し、吹き出した中身をボビーもかぶってしまったそうだ)家で誰かが作ってくれる食事?(ピーターがボビーの手を後ろから掴んで、操り人形のようにナイフとフォークで食事をさせる。楽しそうでかわいい)結婚して君は何を欲しいんだい…?」さんざんかまったあげくに去って行く。
一人残ったボビーは”Someone Is Waiting”を歌い始める。
甘く透き通った歌声。「誰かがぼくを待っている。サラのように楽しくてスーザンのように愛情深く、ジェニーのようにほんわかしていてエイミーのようにおっちょこちょいで感激屋の、ジョアンような女性。もし彼女に会ったらわかるだろうか?気づかずに行かせてしまったかな?僕を待っていて。準備はできているんだ。君を見つけ出すから。待っていて!急いで行くから、待っていて!」
歌のラスト、ボビーはサラ、スーザン…と胸の中からいとおしみながらひとりひとりを取り出して大切に両手で合わせて、右手をすっと前に伸ばして”wait for me!”。まるで彼方に5人が合わさった理想の女の子を見つけたかのようだ。ぼくはここだよ、というように手を上げて”I’ll hurry! Wait for me!” やがて上げていた手をそっと胸に当て、見送るように”Hurry. Wait for me. Hurry. Wait for me…”。最後に視線を落としてうつむき、自分は幻を追いかけているのだろうか、と気づいたように顔をあげる。
第5場
マルタが”Another Hundred People”を歌う。「毎日何百人もがNYにやって来て、何百人もがNYから去って行く…」ボビーは3人のガールフレンドと公園でデートをする。
最初はスチュワーデス(1970年代だからこの呼称で)のエイプリルとお散歩。
By: Barrington Stage Company
彼女は憧れの町「ラジオシティ」で暮らすためにNYに来た。ラジオシティがNYの近くの素敵な町だと思い込んでいたのだ。「わたしってほんとにばかなのよ」という彼女にボビーは手を絡めて「君はばかじゃないよ」と微笑む。「NYに住んでいるのも、自分に興味が持てないからなのよ。わたしってほんとに退屈なの」ここで彼女が妙なポーズをとるので、観客は爆笑。美人だがかなりの天然ちゃんだ。「ぼくはすごく面白いと思うよ」彼女は奇妙な話を続け、最後に「話すことがなくなっちゃったわ…」と口をぽかんと開ける。ボビーがくすっと笑いかけてライトが消える。
再びマルタの歌。「毎日何百人もがNYにやって来て、何百人もがNYから去って行く…」
次はキャシーと公園の奥のベンチに座っている。ボビーは最初は退屈そうだ。彼女は「都会の中のこの小さな公園はわたしみたい。なじめてないの」と言い、彼は「君はこの公園のように素敵だよ」と彼女を見つめる。キャシーはうれしそうだがちょっと距離を置いて「NYに出てきたときに、2回素敵な恋をしてから結婚すると夢見ていたわ」「じゃあなぜ僕らは結婚してないのかな?なんで言ってくれなかったの?」「あらー?わたしと結婚したかったの?」とキャシーは冗談めかして笑いながらボビーの肩にもたれて彼を見上げる。しかし「うん、まあね…」と照れる彼の答えに、彼女はさっと表情を曇らせる。「君がそう思ってるなんて知らなかったよ…」「結婚したかったわよ。わたしはどうしてあなたがプロポーズしてくれないのかわからなかった…」「お互いにそう思っていたなら、いいお友達でいるのはやめようか?」と手を握ってプロポーズ。しかし彼女はその手をそっとはずす。「今日は伝えたいことがあってきたの。田舎に帰るわ」その言葉にボビーは驚くが、さらに「結婚するの」と追い打ちがかかる。彼女は都会で忙しく走り回るような暮らしよりも、確かな温かい家庭を築きたかったのだ。ボビーは彼女の額に別れのキスをし、彼女は「あなたはあなたのパーティを楽しんでね」と去る。
再びマルタの歌がはじまる。ボビーはため息をついてベンチに腰掛け、背もたれに手をかける。まるでまだキャシーがそこに座っているかのように。呆然と宙を見つめ、にじんできた涙を手で拭う。うつむいた横顔のまつげが光っている。
ニューヨークにはそんな個人のセンチメンタルな思いを飲み込む渦巻くような大きなエネルギーがある、とばかりにマルタの歌が佳境を迎える。「毎日何百人もがNYにやって来て、何百人もがNYから去って行く。そしてまた新しい100人が電車から降りてくるのよ」パワフルで気持ちの良い歌いっぷりに万雷の拍手が湧く。
By: Barrington Stage Company
最後はマルタとのデート。私はニューヨークの魂(ソウル)よ、という彼女は、ニューヨークの魅力をボビーにパワフルに滔々と語る。圧倒されて聞くばかりのボビー。
最後に彼女は彼を引き寄せ、「人はどこでこの街を感じていると思う?」と言って彼の胸からおなかに向けて色っぽく指を滑らせる。それを視線で追うボビー。彼女はにやりと笑って「おしりよ」。街に本当になじんでリラックスしている人のおしりの穴はこんな形👌、ただ走り回って生きているだけでこの街の一部になっていない人のおしりはこう✊️なっている。ボビーは✊️だと言われ、苦笑してそれを認める。マルタは投げキスを彼の頬に送って去って行く。
第6場
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「僕と結婚しよう」「はぁ?」
【第2幕】
第1場
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第2場
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第3場
第4場
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第5場
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勝手な解釈編
第1幕 第1場
ボビーは一見リア充だ。NYに住み、たぶん仕事も上手くいっていて、5組の友人夫婦たちの人気者。夕食に呼ばれたり、ゲームにつきあったり、夫婦げんかの仲裁をしたり、子どもたちを動物園に連れて行ってあげさえする。夫たちにとってはかわいい弟分、妻たちにとっては身近なアイドル。彼も友人たちが大好きだ。そのうえ3人もガールフレンドがいて毎日がとても忙しい。いつもにこにこしてリクエストに応え、軽妙な会話を交わす社交上手。でも、彼が誰かに迷惑をかけたり、声を荒げたり、心の内を話すことは決してない。本当の自分なんて、わからなくなっているのかもしれない。忙しさと楽しさに紛れて自分と向き合うのを避けているから、自分の部屋で一人でいると、わけもなく疲れて落ち込んでしまうのかも(だからあまり部屋にいないのかもしれない)。ケーキのキャンドルを「願い事をして吹き消して」と言われた彼は「友だちとの関係に十分満足しているから、特に願い事がないんだ」と本心から言うが、それがなにか「違う」ことをキャンドルは示している。
第2場
ボビーはサラとハリーからボビーは常に他人がそばにいる楽しさと煩わしさを学んだようだ。
サラは陽気な頑固者。自分がこうだ、といったら、ハリーに違うと言われても絶対に曲げない。彼女は「ぼくは結婚する準備はできてる」と言い張るボビーの投影ではないかと思う。彼は心底そう信じていて、友人たちを観察して冷静に結婚のメリットやデメリット、結婚するべきか否かという情報を集めようとしている。
そしてポール役のジョセフさんの分析では、サラがボビーの質問ををたびたびからかうのは、彼は質問ばかりして自分のことを全く話さないからだそうだ。
最後に歌われるSorry Greatfulは、このミュージカルの中で一番美しい曲だと思う。旋律も美しいし、歌詞も優しくてほんのり悲哀を感じさせて、結婚するって要するにそういうことかもね…としみじみと沁みる。こんな序盤から既に泣いてしまう…。
第3場
スーザンとピーターは全編通じて常にいちゃいちゃしているラブラブカップル。なのになぜか離婚をする。その本当の理由は2幕でおぼろげに見えてくるが、彼らからボビーは二人で暮らすのに必ずしも「結婚」という形をとらなくてもよいという事を学んだのかも。
スーザンは享楽的で常識にはとらわれない。彼女はボビーの子どもっぽさ、束縛しないしされたくない思いの投影ではないか。そういえばボビーのベッドルームのインテリアも常識にとらわれていない…笑。
第4場
ジェニーとデヴィッドはときどき双子のようにそっくりな動きをする。無意識にお互いがお互いにあわせているようだ。猫をかぶっているジェニーは、自分のことは置いておいて相手に合わせて喜ばせようとするボビーの投影に思える。
ボビーは彼らに結婚の準備ができていると言い張る。しかし言えば言うほど、結婚して自由がなくなる事への恐れやガールフレンドたちへの無責任な態度(ジョセフさんの分析では”ピーターパン症候群”だ)が明らかになってくる。
しかも”Have I Got a Girl For You”で見せたように、相手は誰でもいいわけではないらしい。彼の理想は、友人である5人の妻たちのいいところを集めた女性。そんな人に出会えたらすぐにでも結婚する準備はできている、という歌が “Someone Is Waiting” 。夢みる夢子ちゃんか。笑
5人の妻たちはそれぞれボビーの一部の投影だと思うが、そうすると5人を合わせた相手とは要するに自分自身。たやすく理解でき、自分を理解してくれる相手。まだ他人と人生を共にする準備などできていないのに、それにすら気づいていない、甘いロマンチックなボビー。3曲あるボビーのソロのうち、 “Someone Is Waiting” は特に甘やかに歌っている。しかし最後には、彼も幻を追っていることに気づいたようだ。アーロンの丁寧な演技のおかげで、彼が理想の女性探しから現実のガールフレンドたちと関わることにしたんだな、と第5場へのつながりが見えてきた。
第5場
エイプリルは話したいことを話し、ボビーはただそれをにこにこと聞いて、ときどき肯定的に励ます。ボビーとエイプリルの間には波風は立たないが、意味のある会話もない。
キャシーとボビーはお互い結婚してもいいと思っていたが、どちらからも言い出さなかった。相手に合わせて走り回るような生活に疲れて、キャシーは田舎で温かい家庭を築くために去って行く。ボビーは常に受け身で、求められたら応えるけれど自分から求めることはない。そのことを不便に思ったこともなかったのに、彼女が去った後、初めて後悔しているようだ。
記事リンク
ラジオ局WAMC Northeast Public Radioのインタビュー2本
1.Phone Rings Door Chimes In Comes Company At Barrington Stage https://www.wamc.org/post/phone-rings-door-chimes-comes-company-barrington-stage
インタビューの合間にキャストたちによるショーの中の曲が5曲も入っていて、今思うと貴重な音源かも。ピアノはショーの音楽監督で指揮者を務めたDan Pardo。
- “You Could Drive a Person Crazy” ボビーの3人のガールフレンド、キャシー、エイプリル、マルタの歌
- “Someone Is Waiting” 知り合いの女性たちのいいところを集めたような女の子を探すボビーの歌
- “Another Hundred People” ガールフレンドの一人、NYの魂を持つマルタの歌。
- “Barcelona” 一夜を過ごした後のボビーとエイプリルの歌。
- “Being Alive” 本当の望みに気づくボビーの歌。これはコンサートでもお馴染み。
2.Aaron Tveit In Barrington Stage’s ‘Company’ Through September 10 https://www.wamc.org/post/aaron-tveit-barrington-stages-company-through-september-10