『グリース』はもともとミュージカルであり、1978年にジョン・トラボルタとオリビア・ニュートンジョン主演で制作された映画が大ヒットしました。アメリカではいまだに各地でシングアロング上映会が行われて誰もが知っている、国民的映画だそうです。そのリメイク、という時点でかなりハードルが高い。

夏の海で出会って恋に落ちたダニーとサンディ。遠く離れた地に住む2人にとってはひと夏の甘い思い出だったが、サンディが偶然にもダニーの高校に転校してくる。真面目なお嬢様であるサンディに対してダニーは有名な不良。内心は再会を喜ぶものの、ついいきがってつれない態度を取ってしまう。…という典型的な学園ラブコメディ。育ちの違いを乗りこえて(サンディのほうが)のハッピーエンド。当時はダニーのスタイルを真似たリーゼントの不良が大量発生したそうです。

ライブミュージカルの放送に先立って映画を見たのですが、ちょっとびっくり。当時の世相か、学校も生徒も大変荒れていて、せっかくお嬢様として育ったサンディが「朱に交われば赤くなる」を地で行く転落ぶりとも見えて、そのままやったら現代ではちょっと受けないのでは…なんて心配は無用でした。

アーロンは新しいダニーを作りあげました。親との葛藤を抱えて友だちとつるんでいきがっているけれど、本当は誠実で、ふとした時に育ちの良さがにじみでるダニー。ジェームス・ディーンが演じた『エデンの東』のキャルのような物語が背景にあるのでは、という深みを感じさせます。トラボルタの演じた「どうしようもないワルだけどチャーミング」という単純なギャップの面白さに比べると地味に見えるかもしれません。しかし、からかわれているユージーンにポスターを返してあげたり、仲間がいなくなるのを見計らってから献血リストにサインしたりと品のよさが現代的でキュートです。

さすが舞台俳優と思ったのは、サンディと2人で並んで歌う「サマー・ナイト(Summer Nights)」のラスト。コーラスの盛り上がりに合わせて右腕をすうっと広げ、最後の拍で場をピタリと締めました。

新しいサンディ(ジュリアン・ハフ)は、本当はとても活発でダンスの才能があるにも関わらず、親に抑圧されておとなしいお嬢さんをずっと演じてきた様子。高校のダンスコンテストに出るのにも親には友達の家で勉強してくると嘘をつかなければならず、そのことを最初はダニーにも打ち明けられないほど。自分を閉じ込め周りに合わせることで問題から逃れていたサンディが、信念に基づいてあえて危険を引き受けるダニーを見て、変化していく。その結果卒業式ではっちゃけてありのままの自分を出してみました、という感じで、好感のもてる話の流れになっていました。

物語の見せ場の一つが高校のダンスコンテスト。ジュリアン・ハフは折り紙つきのダンサーですが、アーロンは、『ヘアスプレー』などを見る限りではダンスはちょっと体育会系。これも心配の種でしたが、当日は見事なステップを見せました。

RENT ハリウッドボウル公演』でアーロンの演じるロジャーの恋人ミミ役で共演したヴァネッサ・ハジェンズがリッゾを演じています。ライブ前夜に父親が急逝するという悲劇を乗り越えての演技に称賛が集まりました。

FOX初のライブミュージカルに挑む

『グリース・ライブ!』は2016年1月31に生放送された米FOX初のミュージカルのライブ番組。すでに3年前から『サウンド・オブ・ミュージック』などで生放送ミュージカルを手がけ好評を博している米NBCに対抗し、満を持しての制作でした。サンディは早くからジュリアン・ハフに決まっていましたがダニー役が難航し、2015年夏の放送予定が冬にずれ込んだ末に8月にアーロンが起用されることが決定。様々な期待やプレッシャーを一身に背負っての主役でした。

FOXは、映画や舞台に比べて非常に厳しいテレビの生放送ミュージカルの制限:1回限りの生放送、撮り直し・編集・口パクなし、基本的にスタジオ収録、野外でのロケは難しい、等を逆に全て利用して、見事にライブミュージカルでしかできないショーにしました。

オープニングでは、ジェシー・Jがタイトル曲を歌いながらスタジオの舞台裏や楽屋をめぐり、キャストたちとセッションし、ここからノンストップだ!と期待感を煽ります。スタジオはたくさん使えるので各パートの舞台美術はとても凝っています。そしてひとつの歌の中で次々と衣装が変わる魔法のような早着替え。コマーシャル中にはキャストたちがカートに飛び乗って次のスタジオに向かう様子や、衣装のアイビーロング氏による早着替えの種明かしなどが差し込まれ、視聴者も出演者と一緒になってハラハラドキドキするライブ感満点の演出でした。

終了後に「このショーは今後のライブミュージカルのハードルを上げた」と評されました。

CREDIT: KEVIN ESTRADA/FOX https://ew.com/article/2016/01/31/grease-live-ew-review/

2016年のエミー賞でも高評価

2016年のエミー賞では、10部門でノミネートされ、バラエティ・スペシャル部門の監督賞ほか5部門に輝きました。http://www.emmys.com/shows/grease-live

Best Directing For A Variety Special
BEST LIGHTING DESIGN/DIRECTION
BEST PRODUCTION DESIGN 
BEST SPECIAL CLASS PROGRAM 
BEST TECHNICAL DIRECTION/CAMERAWORK/VIDEO CONTROL

視聴方法

アマゾンビデオで日本語字幕付きで観ることができます。

グリース・ライブ!(字幕版) Amazon.co.jp

必見!舞台裏ブログ

スクリプトコーディネーターのERICAさんのブログ。現場で仕事をしている方の視点で放送1ヶ月前から当日までの舞台裏について綴られていて、写真も満載、とても読み応えがあって面白いです。

https://www.asherworldturns.com/behind-the-scenes-grease-live/

その中でも特にありがたいのが、ワーナーブラザーズスタジオの中の、グリースライブの撮影場所。もちろんもう当時のセットはありませんが、ロサンゼルスに行ったら見学に行こうと思います。

credit: Erica  As Her World Turns https://www.asherworldturns.com/behind-the-scenes-grease-live/